2013年1月10日木曜日

『竹達彩奈 - 時空ツアーズ』



 昨今、アイドルポップの世界には「楽曲派」という言葉があって、それがどれくらいポピュラーなものなのかわからないのですが、つまりアイドルを追っかけるにあたって「接触(握手会とか)よりも楽曲重視」を標榜としている人たちのことです。彼らからの評価が高いのが、Tomato n' Pineや東京女子流やでんぱ組.incや9nineやライムベリーやlyrical school...といったグループ。枚挙に暇がないほど多くのアクトが様々なスタイルを追求しており、しかも『ミュージックマガジン』みたいなコアな雑誌でも取り上げられるような音楽性で注目を集めています。僕はそういう流れをちゃんとは追ってないのでナンですけども、その道に詳しい人も周囲にたくさんいるので、外から見ていても面白いし、たしかにどのグループも曲がいい。そもそも、アイドルポップってそれこそ歌謡曲の時代から、大人たちが本気で遊びながら作っていて、伝統もあるものですよね。秋元康がプロデュースしてるものは正直どうかなと思うけど(おニャン子の曲も今でも人口に膾炙しているのは「セーラー服をぬがさないで」くらいだし、AKB48の曲も2,3曲くらいしか後世に残らないんじゃないか。今だって思い出せないものね。あの人は音楽に対する愛があまり無い気がする。でも野猿はけっこう好きです)。とにかくそういった伝統が新しいスタイルで、新しい世代のアクトたちによって生み出され、そしてそのシーンが盛り上がっているというのはいいことですね。




 このように多彩なシーンのアイドルポップに対して、声優ポップ(そんな言い方するのだろうか?そもそも、アイドルもアニソンも音楽的には単純にJ-POPに区分される音楽が売り方によってタグがつけられているだけなので、これらの言葉はあくまでシーン的なもののことを指すのだと思う)はあまり聴かれ方に幅がないというか、アニメファンは聴くけれど、それこそ『ミュージックマガジン』みたいな場所でそこまで評価されることはないと思うんですね。坂本真綾さんは表紙になっていたけど、それは菅野よう子や鈴木祥子さんの流れがあるからですよね。だけど、今年はもう少しそういった位相が変化してくるのでは?と感じています。竹達彩奈さんの新しいシングルがリリースされたので、発売日の朝、iTunes Storeで買いました。会社に向かう途中に繰り返し聴いて、このシングル、すごくいいなあ〜と思いました!




 ちょうどこのような記事が出ていて、良かったので紹介します。

『ナタリー - 竹達彩奈×沖井礼二×小林俊太郎「チーム竹達」徹底解析 | ナタリー 』
http://natalie.mu/music/pp/taketatsuayana02




 この記事の冒頭で「竹達彩奈というプロジェクト」について触れられていますが、最初に元シンバルズの沖井礼二さんが迎え入れられた時点で、サウンドの方向が大きく絞られていたと。やろうとしていることがだいぶ明確だったわけですね。それは「今までの声優業界にはあまりなかった音」。末光篤さんによるセカンド『♪の国のアリス』を経て、今作のリードトラックの「時空ツアーズ」があの、筒美京平さんの書き下ろしです。筒美さんは、「ブルー・ライト・ヨコハマ」や「木綿のハンカチーフ」や「また逢う日まで」その他あまたの作品を作った、日本で一番偉いポップス職人のひとりです。去年の11月頃、最初にニュースを聞いたときは驚きました。そしてこれによって、当初に掲げられたコンセプトに関しては相当、歩を進めたなと思うんです。というのは、彼女(のディレクター陣)はプロモーションにあたって、ファーストシングル『Sinfonia! Sinfonia!!!』のときから「誰が制作に関与したか」といった部分を前面に打ち出しているんですね。でも、それってだいぶマニアックじゃないですか?今回にいたっては、竹達さんの公式サイトのトップページに「筒美京平」というトピックが一個ドンとある。それは相当変でしょう。それだけ、筒美京平という存在は大きい……いま勢いのあるアイドルポップの世界でも、これほどの大御所が参加している作品はないはず。せいぜいももクロの布袋さんくらいでしょうか?実はこのプロジェクトは元々、筒美さんからの楽曲提供ありきで、そこに擦り合わせるために一枚目、二枚目の作家が選ばれ、歌手としての像を確立させていったということが鼎談の3ページ目で明かされています。つまりここまでずっと準備していたんですね。たしかに、これまでのシングルも音楽をモチーフとした歌詞でした。まず意識的に「本格的な」「楽曲派向け」の音楽を作り存在感を示す。そして筒美京平というアイコンは、いわばその本格派の最大級ともいえる存在。これはリスナーに対して大きなアピールになったのではないでしょうか。




 もちろん、クレジットだけで音楽を語ってもしょうがない。ただ楽曲に関していえば、やっぱりめちゃくちゃいい。おだやかで自然な譜割りのメロディ、アメリカンポップスを感じさせるハーモニーなど、ちょっとナイアガラっぽさを感じます。そりゃバックコーラスに杉真里さんが参加しているんだから、ナイアガラに聴こえますよね。ベースラインも抑制がきいていて、余裕あるゴージャス感を演出しています。「シンプルなリズムの上にきらびやかなサウンドが乗る」。まさにその通りです。個人的にはAメロ頭がルートでペダルしているのがツボ。カウンターメロディが半音ずつ動く進行や最後のサビでキーがあがるところも含めて、本当に王道中の王道のポップスです。でも、たしかにインタビューで語られていた通り、ここまで王道のポップスって今ほとんどなくて。AKBのいくつかのシングル曲は王道な構造をしていると思うけれど、この曲みたいな贅沢な響きがない。それは歌の録り方や楽曲のテンポ感というのもあると思いますが、なによりちゃんとお金をかけて作ってないからだと思います。ところで、どうして奇妙なシンセやヴォコーダーっぽい音が入ってるのかな?と思ったのですが、Electric Light Orchestraがキーワードとして最初にあったんですね。しかも『電車男』だから、「Twilight」が収録されてる『Time』。だから「時空ツアーズ」なのか!と合点しました。ギターのアルペジオもELO→The Beatlesを感じさせます。




 作詞はいしわたり淳二さん。スーパーカーを解散してからの淳二さんの歌詞はなんか普通だな?と思っていたのですが、面白かったです。サビの頭に「イケメン ナポレオン」や「銀色の宇宙人」って言葉持ってくるあたり、光っています。それこそピンク・レディーとか、昔のポップスにはそういう無茶な単語を大胆に使った曲が多い気がしますね。時間旅行というと、やはりサディスティック・ミカ・バンドの「タイムマシンにおねがい」を連想します。「さぁさ ようこそ!」というラインなど特に「タイムマシンにおねがい」が下敷きになっているのではないでしょうか?ただ、なにより、個人的によかったのが、「マチュピチュ」という単語……『けいおん!!』の「計画!」という回で、竹達さん演じるあずにゃんが「マチュピチュ」がどうしても言えなくて「マツピチュ」と言ってしまうという、まあ、ファンにはおなじみのシーンがあるのですが……この曲でも「マチュピチュ」言えてない!!!僕は感激しました。でもたしかに舌足らずな歌唱って、「大人たちが若い女の子に歌わせてるポップス」では定番のアイテムなので、そういった点でも相性がよかったのかなと思ったり。




 カップリング曲「Hey! MUSIC BOYS & MUSIC GIRLS!」は沖井さんによる楽曲。これもいい曲です。だいぶ遊びのあるサウンドだと思うのですが、聴いていて無理がないところがいいですね。たとえばアイドルポップ、アニソンともにたくさんの楽曲を提供しているヒャダインこと前山田健一さんの曲、どの楽曲も奔放で面白いのですが、力技というか、強引なんですよね。というかアッパーすぎて、楽しいけれどはしゃぎすぎて疲れてしまう感じ。普段聴くぶんには、パッと聴くと気持ちがいい、よく聴くとビックリする、みたいな曲が一番いいと僕は思っています。




 おそらく今年は竹達さんもそうですが、豊崎愛生さんや花澤香菜さんのアルバムも出るのではないかと思います。シングル曲が溜まってきているので。普通に本業でとても人気のある方たちですが、このシーンで最も「楽曲派」を感じています。何が違うのかうまく言えないですけど。鼎談の最後で小林俊太郎さんが語っていますが

……このプロジェクトによって、もっとその垣根が壊れたらいいなというのはすごく感じますね。どうしてもアニメ業界の音楽を「そういうもの」として聴こうとするんですよ。従来の音楽好きは。京平さんのこの曲なら、その垣根を壊してくれるんじゃないかなって。プロジェクト自体もそういうふうに、もっと表に向かって飛び出したいというか。そういう気持ちはありますね。

若い世代のアクトのアルバムが何枚も出てまとまった評価がされれば、このシーンの流れもだいぶ変わってくるのではないかなと思います!とても楽しみです!



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